はじめに
「人生最大の買い物=家」だと思っていませんか。
実は人生最大の買い物は家ではなく、住宅ローンです。
人生最大の買い物である以上は失敗のリスクも相応に大きくなりますから、確実に正しい知識を持って行動する必要があります。そこで住宅ローンについて、利用者が知っておくべきすべての情報をまとめました。
基礎知識からよくある勘違い、自分にあったローンの組み方から申込の流れまで、すべて網羅していますので、ぜひご覧ください。
なぜ人生最大の買い物は家ではなく住宅ローンなのか
まずこれを理解することがとても大切です。
もちろん現金一括で住宅を購入すれば話は別です。
しかし住宅を購入する方の約2人に1人は住宅ローンを利用していますし、この記事をご覧いただいている方は恐らく住宅ローンのご利用を検討されている方だと思います。
その場合、実際の買い物は住宅ローンであると認識する必要があります。
なぜなのでしょうか。
仮に、価格が3000万円の土地建物を購入するとしましょう。
現金で「住宅」を買う場合
現金一括で「住宅」を購入される方は、3000万円の買い物をすることになります。
価格は不動産の相場で決まります。現金3000万円を支払い、それで終わりです。
「住宅ローン」を利用する場合
一方「住宅ローン」の場合、買い物の金額は4000万円にも、6000万円にもなり得ます。
なぜなら返済総額は利用する金融機関や商品、金利や返済方法、付帯して発生する諸費用によって変わってくるためです。
さらに住宅ローン控除の制度を利用すれば所得税などを含む総支出は変わりますし、団信という保険(詳しくは後述)を利用すれば万一のときにローン残額がゼロになる救済措置もあります。
これだけ見ても、「住宅」と「住宅ローン」がまったく異なる買い物であることがお分かりいただけるかと思います。
住宅ローンを利用する方は「人生最大の買い物は住宅ではなく住宅ローンである」という認識を持ち、住宅ローンについて正しい知識を持つことの必要性を理解すべきなのです。
住宅ローン=借金=悪ではないのか
「でも住宅ローンって借金でしょ?借金は嫌だな」という方もいらっしゃるでしょう。
しかし住宅ローン=悪というのは日本特有のありがちな勘違いです。
結論からいえば「住宅ローンは悪ではなく、むしろメリットのほうが大きい場合が多い」ということになります。まずはこの考え方に切り替えることが大切です。
借入を何千万もするのはやっぱり不安?住宅ローンを利用すべき2つの理由
日本特有であると述べたのは、借金に対してバブル時代のイメージが残っている背景があるためです。バブル当時の住宅ローンの金利は約8%というきわめて高いものでした。高金利で住宅ローンを組んでしまえば当然返済は厳しくなり、住宅ローン=生活を苦しめる悪というイメージが定着してしまいます。
しかし最近では以下の2つの理由により、むしろ住宅ローンは利用すべきであるといえるのです。
理由その1:低い金利
最近では、住宅ローンは実質1%未満の金利で利用できます。これは、ローンの金利としてはもっとも低い部類です。
きわめて少ない負担でローンを利用でき、手元に現金を残しながら住宅を手に入れられるのですから、住宅ローンはぜひ利用すべきといえます。
理由その2:専用の保険
さらに「団信」という救済措置があることも、住宅ローンを利用すべき理由になります。団信とは住宅ローン専用の保険制度であり、万一の死亡や重大な障害を負ってしまうような事態において、ローン残額が完済される救済措置のことです。
残された家族に経済的な負担を強いずに住宅を手に入れられるわけですから、やはり住宅ローンを利用すべきメリットが大きいと判断できます。
これら2つの理由により深く納得していただくために、続いて「金利」と「団信」について詳しく説明します。
2021年現在の金利の状況と今後の見通し
まず知っておくべきは「現在の住宅ローン金利は過去最低水準で推移している」ということです。ただでさえ低い住宅ローンの金利は2008年頃から下落の傾向が続き、日銀のマイナス金利政策等の影響によってこの傾向が続くと見られています。
参照:https://www.flat35.com/loan/atoz/06.html
住宅ローンの金利を決めている2つの要因
住宅ローンの金利を決定している大きな要因は2つあります。
これらを知るすることで、金利の状況を理解しやすくなるでしょう。
2つの要因とは、「市場金利」と「金融機関の競争」です。
市場金利
民間の金融機関の貸出金利や預金金利など、金融市場で適用されている金利のことです。
短期と長期に分類されており、日銀の金融政策で決定する政策金利の影響を強く受けて変動します。
近年では2016年から続く「マイナス金利政策」により、低水準で推移しています。
金融機関の競争
銀行など民間の金融機関は、住宅ローンの金利である「店頭金利」を個別に設定しています。しかし貸出先の獲得競争が激しいため、実質はさらに金利の引き下げが行われています。この引き下げのことを「金利優遇」といいます。
店頭金利から金利優遇幅を差し引いた実質の金利を「表面金利」といい、2008年9月には1.875%だったものが、2020年12月には0.475%まで低下(※)しており、同じく低水準で推移しています。(※ネット契約金利)
団信(団体信用生命保険)とは
住宅ローン専用の生命保険を団信(団体信用生命保険)といいます。
契約者が死亡した場合や重度の障害を負ってしまった場合などにおいて、保険会社がローンの残債を負担してくれる救済措置のことで、残された家族に経済的な負担をかけないための生命保険です。
「フラット35」など一部の例外を除き、多くの民間住宅ローンの利用においては前提として団信への加入を求められます。
団信の保険料
加入は基本的には無料ですが、一般的な生命保険と同様に「がん特約」や「八大疾病特約」などの特約を付けられることもあり、この場合は有料になります。
有料の場合は「保険料」としてではなく金利に上乗せして支払い、通常金利に対して0.1%〜0.3%の範囲が多い傾向にあります。
たとえば住宅ローンの借入金額が3000万円の場合、保険料は約120万円程度ということになります。
団信のメリット
万一のときに家族に経済的負担がかからない
万一の事態に最大で数千万円単位のローンの返済が不要になることは、残される家族にとっては大きなメリットになります。先に生命保険に加入している場合、そちらの掛け金を下げることも検討できます。
所得税が発生しない
団信によってローン残債を完済する場合は保険会社が直接残債を負担することになるため、残された家族に所得が生じるわけではないので、当然所得税は発生しないことになります。
団信のデメリット
通常の生命保険と比べるとメリットが薄い
所得税が発生しないと同時に、当然所得控除も受けられないことになります。
また一般の生命保険に比べると総支払額は高くなる傾向がありながら、特約などの面で保障内容は薄くなりがちです。
健康状態によって加入できないことがある
団信は無料の場合であっても健康状態の告知は必須です。一般的な生命保険と比べると審査は緩やかではありますが、持病や既往歴などによっては加入できないケースがあります。
この場合は、別途民間の生命保険に加入して万一の事態に備えることを推奨します。
住宅ローンの適切な借入金額
住宅ローンを利用することに納得した場合、次に気になるのは「いくら借りればいいの?」ということでしょう。
続いては、あなたにとって適切な借入金額の考え方について解説します。
よくある質問「賃貸家賃と住宅ローン返済額は同額で考えていいの?」
「今の家賃が8万円だから、住宅ローンも8万円くらいで組もう」
賃貸住宅に住んでいる方が住宅ローンを検討するときによく考えることです。
結論からいうと、この考え方は危険です。家賃と住宅ローンを同額で考えるべきではありません。
家賃と住宅ローンはまったく別の買い物
賃貸住宅の家賃の金額を決める要素は何でしょうか。不動産市場の相場です。
地価が上がって大家さんの支払う固定資産税が上がれば、家賃も上がるかもしれません。逆に物件の築年数が古くなったり周辺の賃貸需要が下がったりすれば、家賃は下がることがあるでしょう。
一方の住宅ローンはというと、その金額を決めるのは経済状況や市場金利の推移です。
似ているようでありながら、家賃と住宅ローンは根本的な基準が異なります。そのため、そもそも同列に比較するのは難しいのです。
引っ越し前提で考える!比較すべきは「今払っている家賃」ではない
仮に賃貸の家賃と住宅ローンを比較する場合でも、「今払っている家賃」と比べるのは不適切です。
なぜなら戸建ての住宅を検討している時点で、今の住まいに何らかの不満や不足を感じているはずであり、それはつまり引っ越しが前提になっている場合が多いということになるからです。
引っ越しが前提である場合、比べるべきは引っ越した後の家賃の金額ということになります。家族が増えて大きな部屋に引っ越したり、通勤通学の効率を考えて交通の便に優れた物件に引っ越したりすれば、当然家賃は上がります。
現在のライフスタイルに合わせた視点で考えなければ、家賃と住宅ローンの比較はさらに難しい者になってしまいます。
家賃と住宅ローンは「支払い期間」に大きな違いがある
賃貸住宅に住んでいる場合、たとえば子どもが生まれるなどしてライフスタイルが変わり、支出の構成を見直す必要が生じた際には引っ越して家賃を調整することができます。
住宅ローンの場合、それはできません。最初に設定した返済額は生活が苦しくなったからといって減らすことはできないのです。
賃貸住宅の家賃は支払い期間を任意に調整できるのに対し、住宅ローンは最大35年間は支払い続けなければならないという点が、二者の最大の違いということになります。
支出の内訳は家族構成によって大きく変わる
家計の支出は家族構成によって大きく変わり、特に子どもの人数が影響します。
子ども1人を大学まで通わせた場合、かかる費用は総額で平均2000万円程度だといわれていますので、将来の家族構成まで考えて住宅ローンの支払い額を考える必要があるのです。
ライフプランを考慮した返済プランが必要
家計に大きな支出が発生するイベントを子ども関連を中心として例示すると、以下のとおりです。
- 子供の入学や卒業
- 子供の習い事や塾など
- 子供を留学などにも行かせたい場合はその費用
- 高校の受験、入学費用
- 大学の費用
- 結婚式のお祝い金
- 子供が新居を建てた時の補助
- 老後の医療や老人ホームなど介護費用
- 孫へのお小遣い
- 家族旅行
- 車の買い替え時期
住宅ローンの返済プランを立てるにあたっては、これらのイベントを見据えて将来から逆算考える必要があります。
家賃と同じように考えてはいけないのです。
借入金額の上限は?自分に合った借入金額は?
あなたが利用できる住宅ローンの借入金額の上限は、各金融機関がそれぞれ複数の指標を基に判断して決定します。
しかし、ここで先に知っておいてほしいことがあります。
それは「いくら借りたい」という「借入希望額」から考えたり、「いくら借りられるか」という「借入可能額」から考えたりしてしまうと、返済の負担が大きくなって生活が苦しくなりがちであるということです。
そのため、「いくらなら無理なく返せるか」という「返済可能額」をベースにして借入金額を決めるべきだということを、まず理解する必要があります。
そしてこの返済可能額を算出する上では、「返済負担率」という指標が欠かせません。
そこでまずは、返済負担率について説明します。
返済負担率とは
返済負担率とは、年収に占めるローン返済額の割合のことです。
計算式は以下のとおりです。
- 返済負担率%=(月々の返済金額×12か月)÷年収×100
なお、このときの年収とはいわゆる手取り額ではなく、税込みの額面年収のことを指します。また月々の返済金額には、住宅ローン以外にもカーローンなどを利用している場合、その金額も含みます。
この返済負担率は借入可能額を決める際にも重視される項目のひとつで、フラット35の場合は年収ごとに明確な基準が定められており、民間の金融機関でもそれぞれ年収ごとの基準を設定しています。この基準内に収まっていれば融資の対象となり得るという上限の指標であり、必ずしも「既定の返済負担率=適切なローン金額」というわけではありません。
家計に過度の負担がかからない適切なローン金額の考え方については後述します。
2パターンの年収ごとにフラット35を利用したケースを例にして、返済額の上限を計算してみます。
年収が300万円でフラット35を利用した場合
- 返済負担率:30%以下
- 年間の返済上限額:300万円×30%=90万円
- 月々の返済上限額:90万円÷12ヶ月=7万5000円
年収が600万円でフラット35を利用した場合
- 返済負担率:35%以下
- 年間の返済上限額:600万円×35%=210万円
- 月々の返済上限額:210万円÷12ヶ月=17万5000円
無理なく返せる返済負担率の目安
返済負担率が何であるか分かったところで、「じゃあ負担率が何%なら生活に無理な負担をかけずに済むの?」という疑問にこたえていきます。
結論からいえば、年収ごとに参考にすべき返済負担率の上限は以下のとおりです。
無理なく返せる住宅ローンの返済負担率の上限 |
|
年収 | 返済負担率の上限 |
300万円以下 | 25% |
301万円~400万円 | 30% |
401万円以上 | 35% |
これは生涯日本で暮らす前提で、平均的な教育を受けさせる子供が最大3人までいた場合、安全に無理なく住宅ローンが返済できるという観点から考えられた数値です。
上限を1ポイントでも超えると生活が苦しくなる傾向が高まります。この数値はあくまで上限であり、この割合で住宅ローンを利用するべきであると勧めるものではありません。
逆に、上限以内であれば予算を確保できることが健全な家計の指標だともいえます。「そんなに払えない」という場合は、住宅の購入を考える前にすべきことがあります。
続いて説明します。
返済負担率を計算するときの2つの注意点
まずは自身の年収から、返済負担率の上限を計算してみましょう。
上記の表に合わせると、月々の支払い額の上限は以下のようになります。
無理なく返せる住宅ローンの上限金額 |
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年収 | 月々の支払い額の上限 |
300万円以下 | ~6万2500円 |
301万円~400万円 | 7万5250円~10万円 |
401万円以上 | 11万7000円~ |
この金額を見て、どのように感じましたか?
住宅ローンの適切な返済額を計算する際には、必ず次の2つのポイントについて考える必要があります。
注意点1:他のローンも考慮する
返済負担率とは、年収に対して占める「あらゆるローン返済額」の割合です。
住宅ローンの金額だけで判断してしまうと、適切な負担率を計算することはできません。
返済負担率の対象として含めるべきローンには、たとえば以下のようなものが挙げられます。
- 自動車のマイカーローン
- カードローン
- 奨学金
- スマートフォンやタブレットなどの分割支払い金
上記のうちで返済中のローンがある場合、表で計算した上限額からそれらの返済額を差し引いたものが、住宅ローンの月々の返済額上限として設定するべき数値ということになります。
銀行などの金融機関が借入可能額を計算するときにも同様に上記のローンは確認の対象になるので、自身のローン返済状況については正確に把握しておきましょう。
注意点2:「そんなに払えない」という場合は家計に見直せる点があると考える
返済負担率から計算した金額は上限額ではありますが、同時に「その程度の予算が確保できない場合は現在の家計に見直せる点がある」という指標にもなります。
家計は次の3つのポイントを見直すことで改善することができます。
改善ポイント1:浪費家計を見直す
「収入ー支出=貯蓄」という生活をしていませんか。
その場合、住宅ローンを利用すべきではありません。まずはお金の使い方から理解する必要があります。
正しい形は「収入ー貯蓄=支出」です。つまり先に貯蓄すべき金額を定めた上で、残りの金額を使い切るという生活に変えていかなければなりません。
そして貯蓄すべき金額の指標は割合で決まっています。収入の15%です。
年収ごとの貯蓄金額の目安 |
|
年収 | 月々の貯蓄金額(15%) |
300万円以下 | ~3万7500円 |
301万円~400万円 | 3万7625円~5万円 |
401万円以上 | 5万125円~ |
収入の15%を貯蓄できれば、老後にも平均的な生活が送れるといわれています。
まずはこの貯金額を実現できるようになるまで、支出額を見直しましょう。
改善ポイント2:車の買い方を見直す
車の買い方が間違っていると、住宅ローンを組めない場合もあります。
間違った車の買い方とは「ディーラー系のローンで車を買っている」場合です。
ローンには利用すべきものとそうでないものがあり、前者の代表格が住宅ローンです。その理由は冒頭に述べています。
一方で利用すべきでないのがディーラー系のカーローンや消費者金融のローンです。これらは金利が高く、返済期間も短く設定されています。短期的に返済負担率が上がりやすくなるため、利用している場合は銀行の審査に引っ掛かり、住宅ローンを借りられなくなる恐れもあります。
理想的な車の買い方は、現金一括支払いです。しかし現実的には難しい方が多いと思います。どうしてもカーローンを利用する場合は、頭金を入れて借入金額を減らしたり、返済期間を長く設定したりして返済負担率を低く抑える必要があります。
それには「銀行系のカーローン」を選択しましょう。銀行系であれば、住宅ローンを申し込む際にもまとめて審査してもらえる場合があります。
改善ポイント3:生命保険を見直す
生命保険の掛け過ぎや掛け間違いは、家計に大きな負担を与えます。
保険会社にいわれるがままに保険に加入していませんか。その結果、多くの世帯では家族全員でひとつの生命保険に入っており、全国平均でなんと3万円~3万5000円も支払っているといわれています。(※)
そして全世帯の80%では、生命保険を払い過ぎているといわれています。
住宅ローンを利用する場合、先述した団信に加入することになります。つまり万一の事態でも住宅の購入金額分は保障されることになるわけです。そうなると、残された家族にとって必要になるのは医療保障と収入保障のみです。
住宅購入金額の保障は不要です。しかも国民年金や厚生年金の被保険者であれば遺族年金も利用できるため、住宅を所有していれば万一のときの遺族のリスクは賃貸と比べて大きく軽減できることになります。
この観点から見直すと、生命保険料は平均して約2万円も節約できて1万5000円程度の支払いに抑えられます。これは年間では24万円もの差になり、仮に住宅ローンの返済期間35年間に換算すると840万円の差です。
生命保険を見直せば、住宅ローンで借入できる金額が840万円も増える場合があるのです。
(※)以下2つの出典を基に概算
厚生労働省調査「2018(平成30)年1月1日から12月31日までの1年間の所得」
Aflac「世帯年収別:生命保険の平均月額保険料」
住宅ローンの頭金は入れるべきか入れざるべきか
返済負担率という考え方に基づき、自身にとって適切な住宅ローンの返済額を計算する方法がわかりました。そうすると次によく出てくる疑問が「頭金は(いくら)入れたほうがいいの?」です。
ここでも結論から述べると「頭金は入れないほうがいい」ということになります。
以下に説明します。
頭金とは
頭金とは、物件の購入時に購入価格にあてる現金のことです。
たとえば3000万円の物件を購入するにあたり、手元の現金500万円を先に支払って残り2500万円で住宅ローンを組むような場合、最初に支払った500万円が頭金ということになります。
頭金は必ず支払わなければならないものではありません。融資の承認が得られている場合、支払いは完全に任意です。(※利用者の状況や利用する金融機関等によって、一定の頭金の支払いを条件として融資が降りるケースもあります)
頭金以外にも必要な現金出費がある
借金=悪というイメージから、頭金をできるだけ多く入れて借入金額を減らそうとする傾向がありますが、これはバブル期に生まれた考え方であり現代にはあてはまりません。この理由は冒頭に述べたとおりです。
逆に以下のものは現代においても現金で支払う必要があり、この分の現金を確保する必要があります。
- 土地売買契約時の手付金:売買金額の10%(目安)
- 建物請負契約時の契約金:請負契約金額の5%〜10%(目安)
総額ではそれなりに大きな金額になるため、手元に残せる現金をできるだけ確保するためには、余計な頭金を入れるべきではないのです。
頭金を入れることのメリット
頭金を入れることのメリットは、住宅ローンの支払い総額における利息金額を減らせる点です。借入する金額が減れば当然その分の利息も減ります。
しかし、どのくらいのインパクトがあるのかは理解しておく必要があります。
たとえば以下の条件を仮定して、頭金を入れた場合と入れなかった場合の利息合計を計算してみます。
- 年収:800万円
- 物件価格:5000万円
- 保有現金:500万円
- 住宅ローン返済期間:35年
- 金利:0.625%
頭金 | 400万円 | 0円 |
住宅ローン借入金額 | 4600万円 | 5000万円 |
月々の返済金額 | 12万1967円 | 13万2473円 |
利息合計 | 522万6263円 | 568万734円 |
手元に残る現金額 | 100万円 | 500万円 |
利息合計を比較すると、その差は35年間でわずか約45万円です。これを月々に換算すると1,082円の差ということになります。400万円という多額の頭金を入れたとしても、利息の差はその程度しかないのです。
しかも手元に残る現金が減ってしまうため、修繕などの突発的な出費に備えられなくなってしまいます。
頭金を入れることのデメリット
大きなデメリットは3つあります。
ひとつは住宅ローン控除によって得られる控除額が減ってしまういうこと、もうひとつは手元に残る現金が減ってしまうこと、最後に子どもの可能性が限定されてしまうことです。
デメリット1:住宅ローン控除額が減る
住宅ローン控除とは、住宅ローンの年末の残債に応じた金額が所得税や住民税から控除されるという国の制度です。一定の条件を満たしていれば、最長で10年間にわたって控除を受けることができます。
年末時点の残債の1%が最大控除額であり、上限は40万円です。つまり10年間で最大400万円の控除が受けられることになります。
住宅ローンの利用開始から10年以内の年末の残債が4000万円を下回る場合、頭金を入れることで得られる控除額が減ってしまうことになります。上述の利息の差額と比較して、どちらが実質的に得であるかを考える必要があります。
デメリット2:手元に残る現金が減る
さらにインパクトの大きいデメリットは、手元に残せる現金額が減ってしまうということです。あらゆる不動産において「現金を温存すること」は大原則であり、自身が住まう住宅においてもこれは例外ではありません。
長期的に見れば、劣化や損傷、事故・災害、自身の病気などによって突発的な出費が必要になる事態はかなり高い確率で発生することになります。このとき、現金が必要になります。
不本意な事態で住宅を手放したりすることがないよう、思わぬリスクに備えて現金はできるだけ手元に残しておくべきなのです。この観点からも、頭金を入れることのメリットは大きくないことが分かります。
また同様の考え方に基づくと、「繰り上げ返済」についても同じ注意が必要です。
デメリット3:子どもの可能性を限定してしまう
お子様のいる家庭やこれから計画のある家庭においては、お子様の将来の可能性を広げるために現金を残しておくべきです。公立の学校に通わせる場合でも、子どもが22歳で大学を卒業するまでにかかる費用は平均して2300万円以上だと言われています。これが私立では2~3倍にもなります。塾通いや習い事にも費用がかかります。
これをまかなうために教育ローンを利用するという選択肢もありますが、教育ローンの金利は住宅ローンよりも高く設定されている傾向があります(※約2~5%程度)。同じ出費でも、住宅ローンを利用したほうが金利を抑えられるのです。
住宅ローンの頭金を入れるのであれば手元に現金を残し、お子様の可能性や夢のために使うべきでしょう。
頭金を入れても良い例外ケース
1点だけ、親から資金援助がある場合は頭金を入れても良いでしょう。
親が子に対して家を買うための資金を贈与する場合、非課税措置があります。(家を買う資金として使わない場合は贈与税がかかってしまいます。)
税金もかからず、手元の現金も減らないのであれば、このお金は頭金として充ててもデメリットは小さくなります。
住宅ローンの種類
現在日本には4,800もの住宅ローン商品があるといわれています。その中から、あなたに合ったものをたった1つだけ選ぶ必要があるのです。
こういうと難しいことのように感じられてしまいますが、実は住宅ローンは種類としてはわずか2種類しかありません。「変動金利型」と「固定金利型」の2種類です。
変動金利型の住宅ローンとは
返済期間中に定期的に金利が見直される住宅ローンです。民間の金融機関が扱う住宅ローン商品のほとんどがこのタイプです。先述した「店頭金利ー金利優遇」によって実質0.6%前後の金利に設定されていることが多く、次に説明する固定型と比べて金利が低いのが特徴です。
一般的に金利は半年ごとに見直され、5年ごとに返済額に反映されます。金利が下がれば返済額も減りますが、もちろん上昇した場合には返済額が増えることになるため、リスクに備える必要があります。
固定金利型の住宅ローンとは
返済期間中は金利も返済額も変わらず、完済まで返済条件が固定される住宅ローンです。主に住宅金融支援機構など国の機関が扱う住宅ローン商品に適用されるタイプです。有名な「フラット35」などがこれに該当します。
返済条件が変わらないため変動リスクがなく資金計画を立てやすいメリットがある一方、変動金利型と比べると金利が高いというデメリットがあります。
変動型と固定型のどちらが良いのか
どちらかが絶対的に優れているということはありません。「今の金利が安いほうが得」ということもありません。
重要なのは利用するタイミングにおける金利の推移を見極めることです。
過去から現在までの金利の推移を確認し、次の10年の見通しを立ててみてください。
これが「下がる傾向」にある場合は変動型がお勧めできますし、「上がる傾向」にある場合には固定型を選ぶべきだといえます。
次のグラフをご覧ください。
日銀のマイナス金利政策などによって近年では金利が過去最低水準であることは、先に述べたとおりです。直近ではこの傾向が持続すると見られているものの、10年のスパンで考えれば「これからは上がっていく」と考えるのが妥当です。
長期的には金利の上昇傾向が予想される現在においては、固定金利がよりお勧めであるということができるのです。
ただし資金計画を立てる段階では、固定金利型を利用する前提で計画するようにしましょう。なぜなら固定金利のほうが高く設定されており、これをベースに立てたほうが金利変動による突発的なリスクに対応できる手堅い計画が立てられるからです。
住宅ローンの返済方法:元利均等返済と元金均等返済とは
住宅ローン商品の種類を金利タイプで選んだら、次は返済方法を選びます。
返済方法も2つに分類されています。「元利均等返済」と「元金均等返済」です。ただし住宅ローン商品によっては、返済方法が選択できない場合もありますのでご注意ください。
元利均等返済とは
返済期間中、元金と利息を合わせた返済金額の合計がずっと均等である返済方法を「元利均等返済」といいます。返済金額は変わらず、元金と利息の構成比が変動します。金額が一定になるため返済計画を立てやすくなりますが、元金が減らないのでその分利息が高くなり、返済総額が大きくなるという特徴があります。
グラフで表すと以下のようになります。
元金均等返済とは
返済金額の内訳における元金の部分を均等に返済していく方法を「元金均等返済」といいます。返済が進むほど元金が減るため利息が下がり続け、返済金額の合計が減っていくことがメリットです。一方で返済当初の返済金額が高くなるので、ある程度の経済的余裕が求められるというデメリットも挙げられます。
これもグラフで表すと、以下のようになります。
元利均等と元金均等ではどちらが良いのか
2つの返済方法の最大の違いは利息による総返済金額の差に現れます。
これもどちらが絶対的に優れるということはありませんが、超低金利時代といわれる現代においては、元金均等返済のメリットが小さくなっているといえるでしょう。
たとえば、以下の条件で仮定した場合の返済イメージを表で比較してみます。
- 借入額:2000万円
- 金利タイプ:固定
- 金利:1.5%
- 借入期間30年
この比較による合計金額の差は、わずか33万6058円です。
この程度の差であれば、返済計画を立てやすい元利均等返済のほうが勧めらるといえます。
元利均等返済の場合
元金均等返済の場合
住宅ローンの返済期間
住宅ローンの返済期間としてよく耳にするのは、「フラット35」などにも見られる35年です。しかし実際は、返済期間は任意に選ぶことができます。(利用する住宅ローン商品によっては選べない場合もあります。)
一般的に多くの金融機関では上限を35年に定めています。また申込可能な年齢は20歳~70際に設定されていることが多く、さらに80歳までに完済できることが条件になっています。つまり45歳までに利用申し込みをすれば最長で35年まで返済期間を設定できるということになります。
返済期間を任意に選べる場合、長期間と短期間ではどちらのほうが良いのでしょうか。
以下にそれぞれのメリットとデメリットを並べますが、結論からいえば「返済期間は長いほうが良い」ということになります。
返済期間が長い | 返済期間が短い | |
メリット | 月々の返済額が小さくなる | 支払う利息金額が小さくなる |
現金を手元に残せる | ローン完済が早くなる | |
途中で繰り上げ返済もできる | ||
デメリット | 支払う利息金額が大きくなる | 月々の返済額が大きくなる |
老後の収入減に備える必要がある | 後から返済期間を延ばせない |
支払い総額の観点でいえば返済期間は短いほうが良いということになりますが、住宅ローンのように金額が大きい場合はリスクに備えることのほうが重要であると考えられます。
たとえば返済期間が25年と35年で比べたときに月々の返済額に2万円の差が生じるとします。これを手元に残る現金で比べると、2万円×12ヶ月×35年=840万円もの差になるのです。
先述したとおり現金を温存することがリスクに備える大原則であるとすると、やはり可能な限り返済期間を長くすることがより賢い住宅ローンの利用方法であるといえるでしょう。
見落としがちな「諸費用」とは
住宅購入資金を考えるときによく見落としてしまうのが「諸費用」と呼ばれるものです。
土地や建物の金額の他に、付帯する工事の費用や各種保険料、各種手数料などが発生することを忘れてはいけません。
さらに注意すべきは、この「諸費用」は住宅ローンで返済できる対象にならない場合があるのです。かかる諸費用について事前に把握しておき、必要ならばその分の現金を用意しなければなりません。
諸費用に含まれるものの例
住宅購入の際にかかる諸費用としては、主に以下のものが挙げられます。
平均的な金額も併せて記載するので参考にしてください。
- 登記費用:20万円
- 抵当権設定費用:25万円(ただし借入金額・金融機関により変動)
- 水道加入金:20万円(ただし自治体によって幅があります)
- ローン手数料:5万円
- ローン保証料:65万円(ただし借入金額・金融機関により変動)
- 斡旋手数料:不動産会社による
- 印紙代:2万円
- 火災保険費用:40万円
- 地震保険料:3万円
諸費用を含めた資金のバランスと平均的な割合
場合によって振れ幅は大きくなりますが、一般的に新築戸建て住宅の場合にかかる諸費用は土地建物購入金額の3~10%程度が相場だといわれています。
資金計画を立てる段階では多めに見積もっておき、物件購入費用の10%程度が発生するものとして予算を考えましょう。
住宅ローンが借りられない人の6つの特徴
ここまで住宅ローンの利用を強く推奨してきましたが、次のいずれかに当てはまる方はそもそも住宅ローンを借りられない場合があります。
該当すると考えられる方は金融機関や住宅会社に早めに相談するか、見直すかすることをお勧めします。
特徴1:不動産投資用のローンを組んでいる
住宅ローンを組むのが初めてであっても、投資用不動産をローンで購入したことのある方は注意が必要です。
先に述べた返済負担率の観点から借入可能額が減らされてしまったり、「住宅ローンを利用して投資用不動産を購入するのではないか」という疑いを持たれて融資がおりなかったりする場合があります。
また不動産収入がある場合は確定申告書の提出を要求されるケースもあり、これも申告内容によっては融資が受けられないことがあります。
特徴2:自動車ローンを組んでいる
これも返済負担率の観点から、借入可能額が減額になる場合があります。極端なケースでは自動車ローンの完済を条件に融資がおりる、ということもあるため、特に注意が必要です。
自動車ローン以外にも、奨学金の返済や消費者金融からの借入がある場合も同様です。
特徴3:カードや通信料の滞納履歴がある
過去にわずかでも滞納履歴がある場合、住宅ローンの審査に悪影響があります。
滞納の記録は最大で5年間も残るため、過去5年に遡って滞納がなかったを確認しなければなりません。
特にスマートフォンの本体価格を月々に分割して携帯電話の通信料を支払っている場合、若い方であれば学生時代の滞納などが住宅ローンの妨げになるかもしれません。
特徴4:転職して間もない
転職直後は収入の安定性が低いと判断されることがあり、住宅ローンの審査が厳しくなる場合があります。金融機関によっては「勤続年数が3年以上」と条件が設定されていることもありますので注意が必要です。
住宅購入と直近で転職を検討している場合は、タイミングを調整しましょう。
特徴5:健康面で不安・問題がある
基本的に団信への加入が条件であるため、健康状態の告知において不安がある場合は住宅ローンの利用ができないことがあります。
その際はフラット35などの団信加入が必須でない住宅ローンを利用するという選択肢がありますが、その場合でも別途生命保険に加入するべきであるため、いずれにせよ健康であることは住宅購入においてきわめて重要な要素であるといえます。
特徴6:個人事業を営んでいる
いわゆる個人事業主の方で、確定申告においてきちんと所得申告ができていない場合も住宅ローンの審査においてはハードルになり得ます。
少なくとも過去3年分の正確な記録はすぐに用意できるようにしておきましょう。
住宅ローン借入までの全体の流れ
最後に、住宅ローンを利用する際の全体の流れをご説明します。
住宅ローンの審査において必要になる書類と審査のポイント
住宅ローンには2段階の審査があります(詳しくは後述)。「事前審査」と「本審査」です。それぞれの審査において必要な書類を先に揃えておくと、申込がスムーズに進みます。
また、各審査において金融機関がチェックするのは次のポイントです。
単純に年収が高ければ通りやすい、ということはありませんので事前に確認しておきましょう。
住宅ローンが実行されるまでの流れ
住宅ローンの利用を検討し始めてから実際に融資が実行されるまでは、以下のように進みます。各ステップについての概要もそれぞれ説明します。
ステップ1:まず予算を決める
何よりも先に予算を決定します。
予算の考え方は先に述べたとおりです。「借りたい」という「借入希望額」ではなく、「借りられる」という「借入可能額」でもなく、「無理なく返せる」という「返済可能額」をベースに計算します。
ステップ2:土地を(仮に)購入する
予算が決まったら、次に土地を探して購入してしまいます。注文住宅は土地の法的条件や形状、周辺環境などによって、建てられる家の建築プランが大幅に変わってきます。建築プランが決まらなければ購入金額が定まらず、具体的な資金計画に進めないのです。
ただし購入といっても、この段階ではまだ仮でかまいません。買付証明書という書類を提出しさえすれば土地を仮押さえしてもらうこともできるので、この方法を取ることも選択肢のひとつです。
ステップ3:建築プランを決める
土地が決まったら、各種条件を考慮しながら詳細な建築プランを決定します。
希望する住宅会社のプランナーと相談し、土地の価格も考慮した上で予算内に収まり、かつ理想的である住まいを描いていきます。
ステップ4:住宅ローンの仮審査
建築プランまで決定できれば全体の見積もりが算出できます。この見積もりを銀行に提出し、住宅ローンが利用できるか仮の審査を行います。
審査の手続きはインターネット等を使ってご自身でも行えますが、ほとんどの場合は相談している住宅会社の担当者が銀行との間に入り、代わりに対応してくれます。
ここで、先述した書類を提出します。
ステップ5:工事請負契約
仮審査を通過したら、そのときに用いた建築プランをもって家を建ててくれる施工会社と契約します。施工会社は建物の完成を、契約者は代金の支払いを、それぞれ約束するためのこの契約を「工事請負契約」といいます。
工事請負契約を交わしたあとは建築プランの変更ができなくなりますので、最後にもう一度よく確認しましょう。
ステップ6:住宅ローン本審査
工事請負契約を締結したら、いよいよ住宅ローンの本審査です。
仮審査のときと比べて、より多くのより細かい資料の提出が求められます。
仮審査を通過したからといって本審査の通過が確約されるわけではありませんが、ここで引っかかるケースは稀であるため、あまり心配する必要はありません。
ステップ7:住宅ローン契約
本審査を通過すると住宅ローンの契約ができるようになります。各種書類の提出、署名、捺印を行い、購入した土地と完成した住宅を担保にして契約します。
ステップ8:ローンの実行
住宅ローンで契約した自身の銀行口座に振り込まれ、ローンの実行となります。
まとめ
住宅の購入と住宅ローンの利用がまったく異なる買い物であることがご理解いただけたでしょうか。
住宅の購入を検討する方は、なによりもまず自分が組むべき住宅ローンをについて正しく知る必要があります。そこからスタートして、最後に「家を建てるべきか否か」、「土地の予算はいくらまでにすべきか」、「どんな家を建てるべきか」を判断していってください。これが現代における勝ち組の考え方なのです。
また最後にお伝えしたいのは、住宅ローンの検討は必ず信頼できるパートナーに相談しながら進めていただきたいということです。ここで基本的な事項については網羅しましたが、専門的な分野まで100%カバーできたわけではありません。また金利などの外的状況は毎日変化しており、その都度適切に判断できるスキルが必要になってきます。
いつでも気軽に相談できて、親身になって考えてアドバイスしてくれるパートナーを見つけることこそが、住宅購入を成功させる最大の要因なのです。